
鬼は、節分の日の豆まきや、昔話から現代の漫画に至るまで、さまざまな世界に登場します。妖怪としては私たちにとってもっとも馴染み深いといえるでしょう。
この記事では鬼のはじまりからその種類と伝説を解説していきます!
鬼のふるまい
鬼はどんな悪さをする妖怪なのか?一言では表現できません。
それほど、多様な姿・キャラクター性を持っています。
文献などで鬼が説明されるときは、一般的に次のような表現になります。
ex.)昔話の鬼、伝説の鬼、信仰の鬼、地獄の鬼etc.
ふるまい方は、人の心のすきや弱みにつけこみ、大けがに遭わせたり命を奪ってしまいます。
「恐ろしく超科学的な力、おどろおどろしい気配、神と同等の力を持つ」悪神(あくしん)といえましょう。
また、鬼のふるまいや形態は、大きく5つに分けられます。
鬼の5大カテゴリー
1.民俗学上の鬼で祖霊や地霊。
2.山岳宗教系の鬼、山伏系の鬼、例、天狗。
3.仏教系の鬼、邪鬼、夜叉、羅刹。
4.人鬼系の鬼、盗賊や凶悪な無用者。
5.怨恨や憤怒によって鬼に変身の変身譚系の鬼。
(出典:wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AC%BC)
発祥
鬼という言葉は、中国から入ってきました。漢読みでは「き」といいますが、日本では独特な解釈をあたえました。
「おに」と読むようになったのは、「隠」(おん→おぬ)がベースにあります。これがなまって伝わりました。
大昔の鬼は実体がなかった?
平安時代では、鬼を「モノ」と区別してとらえていました。
妖怪の鬼は、実体があって目で見て触れる存在です。いっぽう、モノは実体をもたず、霊魂のような目に見えない存在でした。
モノは、物質的なものではなく、もののけのように強い霊気を持ったものとしておそれられました。
この時代、モノを含めた鬼は、基本的には人前に姿を見せませんでした。
神秘的で、人間には立ち入れない領域の精霊のような存在だったのです。
いつ出現したのか?
日本ではじめて鬼の姿が見られるのは、720年ごろの日本書紀のなかです。
この資料において、欽明天皇5年(544年)ごろの記録に、「鬼魅」(おに)という表現があります。
妖怪というより、異国人・外国人を表現しているといわれています。
登場当初は、妖怪というより人間にあてはめて使われていたようです。
たとえば、とても醜いもの、はるか遠い国からやってきた人、異邦人、山賊などの強盗集団、反社会的集団が該当します。
今の時代からすれば、倫理的にどうかなと思いますが、当時はこうした「詳細のわからない人々」を恐れて「鬼」と呼んだのでしょう。
出雲風土記
日本書紀の記述以外では、733年ごろの出雲風土記があります。
「大原郡阿用郷」(おおはらぐんあよのさと)という項目に、「目一鬼」(まひとつのおに)が登場します。
阿用郷は、現在の島根県の地域にあたります。
この鬼には、畑をたやがす農民の人びとを食っていたという逸話があります。
中国の「鬼」(き)から始まって、日本に伝わりました。
わが国では仏教の影響もあって、鬼は宗教の悪神と結びつきました。羅刹や夜叉などがそれです。
仏教に限らず、日本古来の悪神や外国人などとミックスされていきます。
こうしたプロセスを経て、現代の「鬼」ができあがっていきました。
出没地域
鬼は日本各地に出没していますが、特に有名な地域を挙げていきます。
- 鳥取県 「鬼住(きずみ)山と鬼伝承」
- 岡山県 桃太郎/温羅(うら)伝承
桃太郎伝説のモチーフとなった伝説です。
百済(くだら、古代朝鮮の国)の暴君「温羅」(うら)が、古代吉備地方(きびつ、現代の九州)に住んでいました。
温羅は下っ端の鬼を引き連れて、悪事を重ねていました。
温羅の悪行を止めるため、崇神天皇は孝霊天皇の子で四道将軍(よつのみちのいくさのきみ)の一人・吉備津彦命(きびつひこのみこと)を派遣しました。
温羅がさまざまな生き物に化けて逃げ回る中、吉備津彦命も動物に化けてとどめをさしました。
死闘の末、吉備津彦命は温羅を退治しました。
- 青森県弘前市鬼沢 「岩木山北山麓赤倉側 古代製鉄地帯の鬼伝説」
- 京都府 大江山 酒呑童子(しゅてんどうじ)
別名酒顛童子、酒天童子、朱点童子といいます。
京都と丹波国の国境にある、大江山に暮らしていた鬼部族(盗賊)のかしらです。
容姿は、ほのかな赤ら顔に、赤い縮れ毛。
また、身長が6メートルの大男で15の目玉を持っていました。
- 長野県 戸隠の紅葉伝説
長野市に伝わる鬼女の伝説です。紅葉(もみじ)とは彼女の名前。
本名は呉葉(くれは)といいますが、分身を生み出し雲隠れしました。
その後宮女となって、数奇な運命をたどることとなります。
鬼の外見

いわゆる、よく知られた鬼の格好は、
- 頭に牛の角(二本または一本)がある
- 巻き毛、腰に虎のふんどしをまとっている
- 武器は巨大な金棒。
といったところでしょう。
牛の角に虎のふんどしなのは、鬼は丑寅(干支)の方角より侵入するためと考えられているからです。
【鬼の色】
赤鬼と青鬼が代表格ですが、黄色や黒い鬼もいます。
2月の節分に端を発し、5色(赤・青・黄・緑・黒)の鬼に大別されます。
色によって、鬼がつかさどる精神性(特に欲望や憎悪などの邪気)が異なります。

- 赤鬼:つかさどる感情は「貪欲」。人間の心に巣くうあらゆる邪気の象徴
- 青鬼:つかさどる感情は、「怒り・貧相」
- 黄鬼:つかさどる感情は、「我執(がしゅう)」。わがままであることや自己中心性をのことをいう
- 緑鬼:つかさどるものは「不健康」
- 黒鬼:つかさどる感情は、「不平不満」
それぞれの悪い感情を鬼に置き換えています。
節分の日に、豆を投げておまじないを唱えることで、これらの邪気を取り除くんですね。
鬼の種類
いろいろな伝説に登場する鬼たちを、お話とともにご紹介します。
すべての鬼が「角があってふんどしを着けている」かと思いきや、いろんなすがた形の鬼がいるんですよ~!
青鬼(あおおに)
登場する文献:諸国百物語
容姿:体は真っ青。身長は6メートルほど。
逸話:『諸国百物語』
加賀の中納言(石川県の官僚)が死の床にふせったときです。
武士でうまった広間に、鬼が現れました。その鬼は人間たちに害を与えることもなく、玄関から出て行きます。
どんな特性の鬼かは不明ですが、中納言の死と関係があるとされています。
ちなみに、刀を持っていたサムライも、この鬼に指一本ふれることもできなかったそうです。
浅茅ヶ原の鬼婆(あさじがはらのおにばば)

地域:東京都台東区浅草花川戸
別名:一つ家の鬼婆
特徴:自分の家をたずねる旅人を容赦なく殺め、その持ち物や財産を奪って生計を立てている
逸話:
浅茅ヶ原に高齢の女性と若い娘が住んでいました。
周辺には家がないため、旅人が毎夜彼らの家を訪ねてきます。老女は、旅人を受け入れはせず命を奪っていました。
ある晩、こどもの旅人が家を訪れます。老女はいつものように殺してしまいますが、それはこどものふりをした自らの娘でした。
その後、本物のこどもの旅人が現れます。その子は観音の化身でした。
娘の死を悔いた老女は、近くの池に投身したとも、観音の説教により改心して仏道を志したともいいます。
安達ケ原の鬼婆(あだちがはらのおにばば)
地域:福島県二本松市安達ケ原、埼玉県大宮市、ほか各地域
特徴:妊婦のお腹を割いて、赤ちゃんを奪い取る
逸話:
昔、京に岩手という乳母がいました。彼女が仕える姫様の病気を治すため、岩手は、最適な治療法とされる「胎児の生き肝」を入手しようと思い立ちます。
旅の末、奥州(東北)の安達ケ原の岩屋に住み着きました。ある日、産気づいた旅の女性が岩手に助けを求めます。
いいカモになると、岩手は女性の腹を割って赤子を取り出します。が、その妊婦は岩手の実の娘でした。
岩屋は気がふれて、以後宿を求める人を食らう鬼と化してしまいました。
それから後、東光坊祐慶という和尚が訪ねてきます。この和尚も岩手の手にかかりそうになりますが、観音の力によって命を救われました。
岩手は、神が落とした雷によって退治されました。
油瓶の鬼(あぶらかめのおに)
文献:今昔物語集
特徴:油瓶にとりつくもののけ。疫病神のようなもので、これが侵入した家の若い者は早くに亡くなってしまう
逸話:
昔、ある大臣が御所を通りかかったとき、なんとも奇妙なものが横切るのが目に入りました。
それは油瓶で、まるで踊るような足取りで西方の家へと向かっていました。大臣はその変なものが気になります。
そして、従者に例の家へとつかわせて様子をさぐりました。
帰ってきた従者によれば、油瓶がとりついた家の若い娘が、もともと病身だったのが亡くなったというのです。
板の鬼(いたのおに)
文献:今昔物語集
容姿:板の姿。鬼が板に変身したもの。
逸話:
ある武家につかえるサムライが宿直当番をしているとき、怪しいものを見ました。
それは板で、板は他のサムライたちが寝ている部屋に侵入しました。
当番のサムライが様子を見に行くと、寝ていたサムライたちは亡くなっていました。
板が、彼らの寝息をふさいで呼吸をうばったためでした。
縊鬼(イツキ)

文献:『反古のうらがき』
地域:江戸麴町(東京都千代田区)
特徴:屋敷の門にいて、人間に「首をくくる気はあるか」とたずねる。
約束を取り付け、必ず首をくくらせようとする。
人間に疑問をもたせず、義務感をもたせるなどマインドコントロールもおこなう。
逸話:
ある組頭の屋敷で宴会が開かれました。
組頭は話のうまい友人が現れるのを待ちますが、いつまで経っても来ません。
やがて例の友人がやってきますが、「先約がある」として去ろうとします。
組頭が彼を引き留めてわけをたずねると、友人は門のところで変な男と「首をくくる約束をした」といいます。
組頭は、なんとか友人をその場にとどまらせます。それが幸いでした。
そのとき、入れ違いに「首つり自殺」があったと知らせが届いたからです。
牛鬼(うしおに)

地域:近畿、中国、四国、九州地方
容姿:頭が牛で体は鬼。あるいは逆のパターン。
性格:凶暴。ほとんどが人に害を与えるが、人を助ける鬼もいる。
能力:美しい女性に化ける。気配だけで人を病気にしたり、影にとりつくことで食い殺したりする。
特徴:海や川でよく目撃されている。女の妖怪とよくセットで現れる。
赤子を抱いている女の妖怪で気を引いておいて、あとから牛鬼が現れて人をくらう。
天邪鬼(あまのじゃく)

小鬼のような妖怪です。神話や仏教では、神の正しさを示すため下っ端の悪役とされます。
民間伝承では、キャラクターが地域でちがいます。
地域:秋田県、茨城県、群馬県、静岡県、栃木県、富山県、岐阜県、神奈川県など
性格:人間の心を読み取る洞察力にすぐれる。神経をさかなでするようなことを言ったり、やったりする。
逸話:
- 口真似をする点から山の妖怪「山彦」と同じとされる
- 富士山を崩そうとした巨人説
- 天稚彦神話の天探女(あまのさぐめ)説。天探女は天稚彦につかえる女神。天神が偵察のために放った天稚彦に射させたらしい。女神が魔女としてみなされ、のちのち天邪鬼になったとされる。
百目鬼(どうめき)

地域:栃木県宇都宮市大曽
容姿:身の丈は3メートルほど。刃のようにするどい体毛、100こもの目が全身についている。
退治されたとき、毒気が放出されたことから強い毒性もある。
逸話:
平安時代の貴族で武将・藤原秀里(ふじわらのひでさと)は、旅の途中で、謎の老人と出会います。彼から、「大曽村の近くに鬼がいるから、退治するように」と突然お告げを受けます。
いわれたとおりに村まで行くと、全身に目玉をめぐらせた大鬼が現れました。
秀里は祈りの力と法術をもちいて、みごと鬼を退治します。
鬼は炎となり、やがて人の形となって消えました。
なまはげ

1月15日(現在の12月31日)の夜、民家をまわって厄災をはらう神の使いです。
若い男性が怖い鬼に扮し、こどもがいる家々を回ります。まさに「泣く子も黙る」年中行事。
有名なセリフは「悪い子はいねえがあ」「泣く子はいねえがあ」
地域:秋田県男鹿半島
容姿:おどろおどろしい鬼の顔と、藁でできた衣装を身につける。手には包丁または桶を持つ。
起源:
男鹿市での伝説では、漢(中国)の武帝が鬼たちと男鹿半島の山に住み着いたといいます。
鬼たちがせっせと働くので、武帝は1月15日だけは里に下って無礼講を許すとしました。
その鬼たちが、なまはげになったのではといわれています。
おわりに
鬼といえば、赤鬼と青鬼のイメージが強かったです。
調べてみると、怨念だったり人間の老女だったり……さまざまな形をとっているんですね。
もともとは異国人や人の狂気を表現していました。
こんにちの「鬼」ができあがるまで、いろいろな要素が組み込まれているように思えます。
みなさんの鬼知識の一助になればさいわいです。